あいさつと研究内容

あらゆる国で、あらゆる人が、新しい生活様式への変更を余儀なくされた一年でした。そんな中でも、慶應医学部の基礎研究は、極端にパフォーマンスを落とすことをせずに継続できた幸運なケースだったと思います。この研究室では、研究室の創設メンバーの一員であった吉田慶多朗君が6月に29才の若さで急逝し、その衝撃から立ち直るのに多くのエネルギーを費やしました。吉田君は慎重な人でしたから、ある程度のサンプル数が溜まるまでデータを私に見せることをしませんでした。途中経過でPIが興奮し、その中間データで研究ストーリーを展開させないためでした。そのため、そういった貴重で萌芽的なデータが暗号化されたまま保存され、生データとノートをたどっても、何が何だか分からない残念な状況になっています。私たちの多くは、明日、突然死ぬことを前提に生きていませんので仕方のないことです。ですが、皆さんは、誰が見ても分かるようにノートをとっておくこと、小さな発見はその都度、誰かと共有しておくようにしてください。そういう自分も、私が突然死んだときに、遺族が私のパソコンを覗いても、5%くらいしか理解できないのではないかと思います。事務的なことはある程度他人でもわかるとしても、私が今後何をやろうとしているかという腹の中は決して残された資料からは分からないと思いました。

自分の腹の中は、実現するその日まで決して見せてはいけないという意見もあります。ですが、私は、どんどん見せた方が良いと思うようになりました。ビジョンと言い換えられるかも知れませんし、夢と言い換えられるかも知れません。研究は見えないものを見えるようにする作業であり、見えたことから新しい概念を生み出す作業です。あんなことが起こるかも知れない、こんなことが起こるかも知れない、こんな仮説が成り立つかも知れない、と普段から研究のことについて仲間と話すのが良いです。そういう話せる仲間を作ることも必要です。話すことで、語ることで、頭の中が整理され、腹の中も黒い色から分かりやすい色に変わるのではないでしょうか。

今のラボに、なぜこのメンバーが集っているのか。これは全くの偶然です。しかし、必然的に、このメンバーで研究を進めていきます。このメンバーでマウスの世話をして、議論をして、面白い研究を展開していくことになります。個性豊かなメンバーが揃っていますし、各人の得意不得意も多様です。また幸いなことに、私と長く付き合わせてもらっている他大学・他施設の共同研究者の皆さんは、利他の精神に溢れ、私のラボメンバーに対して分け隔てなく、研究について基本から教えてくれます。こういった多くのチャンスを活かして、各人の研究を発展させて下さい。恥ずかしがらずに、大いに夢を語って下さい。

あいさつの最後に変わらぬ研究室運営のモットーを3つ。

1. Beauty is truth. (by 濵清)
2. 研究は楽しくなければならない。楽しくない研究はするな。(by 池中一裕)
3. 共同研究者から学ぶ。

2020年の10大ニュース

1. 吉田慶多朗君、さようなら。今までありがとう。
2. 学術変革領域研究が採択された。単に領域長の岡部さんが凄い。
3. diffusion functional MRIを応用したignition-driven propagationを可視化した論文で、阿部さんが一皮むけた。
4. 蛍光顕微鏡をラボに入れた。今以上に目を鍛えよう。
5. 鹿野・高田さんがDA GRAB計測系を立ち上げた。
6. in vivo電気生理学を吉田君以外がやるようになった。みんな頑張れ。
7. ミクログリア研究に着手。
8. Annaと井原さんが、「ただひたすら観察する」研究を愚直に行う。
9. 自主学習前に医学部2年生が研究を始めた。3人も。
10. 小杉さん(脳外科医)がHippocampusに論文掲載。

 

過去のあいさつ