先端研脳科学が信濃町キャンパスのリサーチパーク2Nではじまって丸1年が経過しました。精神科の100㎡の限りあるスペースから300㎡に増えましたが、ヒトが増えたわけではないのでラボはスカスカです。今は阿部さんというエースが一人で頑張っている状況で、そこに医学部生、学位取得後すぐのポスドクが基礎トレーニングを続けています。高田さんは量子コンピューティングの脳科学適用という新しい課題に取り組みましたので、これから多くのデータが出るというよりも手探りをし続けることになります。
私は時限付きの特任准教授、いずれどこかに出る准教授から、無期雇用の教授になりました。新しいことに15年間全力で取り組めるチャンスが巡ってきました。そんな中で2022年1年かけてやったなかで上手く行きそうなことの紹介と、それに対する私の考えを書いておきます。それらのプロジェクトに興味を持つ方に集ってもらいたいと思います。
1. マウス構造MRIをスクリーニングに用いる脳科学研究
Brain wide, unbiasedに脳構造の変化を探しに行きます。脳構造の変化は、機能可塑性の構造基盤であるという考えに基づき、機能可塑性を探します。これまで神経基盤が殆ど分かっていなかった病態、治療メカニズムの解明にマウス構造MRIを使います。ジスキネジア、ECTの治療メカニズム、抗うつ薬の治療メカニズムなどで利用していきます。
(私のコメント:マウス構造MRIをゼロから学べる機会。その後の超解像顕微鏡による解析も学べる。グリア研究もここに接続される。ハイパーな阿部さんについていけるヒトが、ハイパーなアウトプットを得ることができる。Abe,
Takamiya,Kosugi, Mari, Key, Chisato)
2. 脳血流制御と脳機能発現
Vascular optogenetics(Abe+ Cell Rep 2021, Oishi+ Glia 2022)を用いて脳血流が制御できます。制御して何をしたいの?と問われる分野です。実際には制御してみて分かったことから捻って研究疑問を作ります。
(私のコメント:理解不能な表現型に出会えます。それを医学生物学の長くからある疑問に結びつけられるかが腕の見せ所。色々な分野の方と喋って、色々な角度からモノを見て考えられる人向き。グリア研究もここに接続される。Manal,
Chisato, Abe)
3. 計算論による行動のモデリング
ドパミンGRABセンサーとphotometryで、井原さんらが高田さんのsupervisionのもとで仕事をしています。消化器内科寺谷さんの仕事はここに含まれます。上がる下がるを見たらおしまいなのでさっさとケリつけよう。
(私のコメント:慶應医学部でプログラミングや数理統計に強い学生向き。Harvardからラボに合流する木村さんがこのプロジェクトに加わって更に展開するかも知れない。高田さんが量子コンピューティングを加えて更に展開するかも知れない。Ihara,
Sae, Ume, Kimura, Takata family)
4. AAVによる先天性神経疾患治療
MLCという小児疾患はMLC1のloss of functionによって生じます。AAVでMLC1をアストロサイトに補充すると、マウスでは発症後にも拘わらず病態が緩和します。ヒトMLCに医師主導治験を行います。
(私のコメント:自治医大の村松慎一先生の指導の下行っています。学内の経験者からアドバイスをもらって進めています。AAV治療の革新的な進歩が更に欲しいところ。できればそれを日本から発出したいです。Opto)
5. 内受容感覚と感情の起源
Tsutsui-Kimura+ Nat Commun 2017以来、腹外側線条体の上流である島皮質に注目し続けています。吉田君が生前にアクセプトまでやりきった仕事(Yoshida+
Cell Rep2020)で島皮質研究は止めていますが、文学部梅田聡先生と内受容感覚と感情の起源についてはアイデアを練り続けています。
(私のコメント:まだ未熟で多くは語れません。ヒト心理学とのイケているコラボとしたい Chisato, Anna)
6. 非視覚型光受容オプシンの基礎的研究
AMED CREST分担で、Opn3, Opn4, Opn5陽性細胞から前向性にトレースする技術を開発します。
(私のコメント:森藤さん(助教)、Rachel(修士)という新しいメンバーに取り組んでもらいます。Morito, Rachel, Abe)
以上の研究を進めていく上で、ラボメンバーに要求する3つのモットーは変わりません。
Beauty is truth 美即是真
研究を楽しむ 享受研究
共同研究者から学ぶ 半学半教
2022年の10大ニュース
1. ナリシゲ主催のランチョンセミナーでBeauty is truthについて口演
2. 加藤論文がJ Neurosciに掲載。吉田君の名前が載る最後の論文。
3. 大石論文がGliaに掲載。表紙を飾る。
4. ジスキネジア論文がCellにreject
5. 精神科 髙宮さんはさすがだわ
6. 脳外科 小杉さんにギアが入る
7. 慶應−理研CBSのコラボを仲介
8. 高田さんが量子コンピューティング研究に着手
9. 先端研 ガン免疫分野が発足
10. 体育会アメリカンフットボール部がTOP8に踏みとどまる